アカシック『LSD』
【お前がイヤだからといってこの表現そのものは消せやしないのだよ】
アカシック、見事だな。このミックスに綺麗な仕上がりを狙ったりしているなんてことが微塵も感じられなくて、素敵。1分過ぎに出てくる16トラックHDマルチトラックレコーダー。DTMの世界に登場した時はこりゃすげえと思ったけれども、今となってはもはやガラクタ。レイテンシー問題でまだまだ現場で録るにはアドバンテージもなくはないが、それより処理速度の速いノートパソコン使った方が断然便利だぜ。ということで、その直後のカットでは割られたCDが次々と重ねられていく。そもそも16:9の画面をあざ笑うかのようなこのスマホ向けの縦長動画。旧い常識を次々と超えていきながら、音楽もバンドも進化していく。進化を止めれば化石か石碑になるだけで、現役のバンドがそんなわけにはいかないよね。旧い形で音楽を楽しむ人たちの方がお金持ってるからってそこ向けに音楽を作っていたら、それはビジネスであって表現ではない。さらにはスマホでイヤホンというスタイルのリスナーのために最適な音楽を作っていても、それは生産であって表現ではありえない。聴きやすくてウケやすい音楽などが自分の内から沸き上がる人はビジネスマンであってミュージシャンではない。それでも売れたいからウケたいからそんなことがなかなか頭から離れないのも普通のことで、だから僕はこのアカシックの『LSD』のところどころで聴こえる「キャー!!」というシャウトに、なにかの音域のリミッターを超えて割れちゃってるこの耳に厳しいシャウトが、見事だなあと思うのだ。こういうのを、作ってブッ飛ばしたかったのだろう。それでいいのだ。聴くヤツが聴きにくいとかおこがましいよ。イヤならスイッチを消せ。お前がイヤだからといってこの表現そのものは消せやしないのだよという、アカシックの強さがここにはあるような気がしてたまらない気持ちになる。
(2018.7.30) (レビュアー:大島栄二)