ニトロデイ『ジェット』
【善くも悪くも時代を反映した切れ者ロックバンド】
善くも悪くも音楽は時代を反映する。駅が夜の1時でもうどこへも行かれやしないなんていうのは30年前のバブルまっさかりの時代に歌われたのだろうか。30年前なら尾崎豊がどこへ行きたいともなくバイクを盗んで走らせたのだ。それが善いことだとか、終電が終わったらもうどこにもいけないのが悪いことだとかではなくて、何か時代が完全に変わっているんだと思い知らされる。彼らが夢見るのはジェットの自転車だ。バイクでも車でもなく、自転車だ。立ち漕ぎで自転車を走らせ、空腹が残る。時代だな。平成の終わりとはそういう時代なのだな。それを切ないと考えるのか、当たり前でしょそれと考えるのか、それによって自分の立ち位置が明確になる。自転車立ち漕ぎで空腹が残るのが今の青春なのだろう、善くも悪くも。
かといってサウンドまで空腹が残る種類のものなのかというとそんなことはなく。切れの良さ、展開の速さ、ロックの潔さがここには詰まっていて心地良い。飽食の時代に愛がすべてさなどと生暖かいことを歌ってこぶしを挙げているよりも遥かにロックの熱さを感じられるし、僕も自転車を立ち漕ぎでブッ飛ばしたいという気持ちにさせてくれる勢いがある。個人的にベースの松島が終始無表情で弾きまくる姿がめちゃ印象に残る。この10年ほど印象的な女性ベーシストがロックバンドの要になってるケースがよくあるのだが、このニトロデイの松島早紀もそういう種類の注目すべきベーシストだ。
(2018.11.26) (レビュアー:大島栄二)