SHISHAMO『君の大事にしてるもの』
【面倒臭い衝動を提案しちゃってて、めっちゃ怖えぇぇ】
SHISHAMO怖えぇぇぇなあ。そこそこ、いや結構影響力あるバンドに成長しているSHISHAMOがこういう曲を歌っちゃったら、「そうだあいつの大事にしてるものを捨てちゃおう。それであいつがなんて言うかな」とか安易に考える女子が増えるのではないかと怖くなる。怖えぇぇよ、怖えぇぇ。歌詞で「面倒臭いこと聞いちゃって」と宣言してるとおり、これは面倒臭い質問なのだ。面倒臭いのだ。だから、聞いちゃいかんよとかここで言ったところでこのレビューの影響力をSHISHAMOの影響力と較べるなんて無理なので、やっぱりその影響力で安易にこんなことを歌っちゃうのはとっても危険。だって、だってですよ、あなたが好きな彼はライダースとジョーダン6とヴィンテージのTシャツとギタリストのサイン入りエフェクターとGTO全25巻とレスポールとでできているのであって、それが無い状態の彼はもはや彼ではない。心の中の記憶と経験を完全リセットした肉体でしかなくて、そうなってしまったら「もはや私が好きなあなたではない」とか言って振るでしょうそうでしょう。危険です、とっても危険です。
歌詞の内容こそ危険だけれど、この曲もMVもとっても良い。YouTube横欄のチャットでギターボーカル宮崎朝子本人が「私盛れてるやろ」と言ってるように、このMVでの宮崎朝子の仕上がりは素晴らしい。だがそれをほんのカットカットでしか見せないような画面構成。そのうちにギターソロで、そのソロパートにググッと寄るカメラ。宮崎のギターソロが唸る。カッコいい。彼女たちがただの個性派ロックバンドとは違うのはまさにこの宮崎のギターだと思う。個性的で意味深な歌を歌っているガールズバンドはたくさんいるけれど、このくらい野太くて繊細なギターを鳴らせるボーカリストはほとんどいない。そこをちゃんとフィーチャーしてて、曲もMVもいい。さらにはこのMVの撮影が普通の6畳間みたいなアパートで行なわれてて、まあ実際にはそこそこ金かかってるんだろうけど、これならオレたちだって出来るぜと思い込むアマチュアバンドマンもたくさん現れるだろう。そう、豪華なセットを組んだり、あきらかに海外だと判るような場所に行ったりしなくても、カッコいいビデオは撮れるのだ。音楽がカッコいいならな。まあその前提はともかくとして、カッコいいビデオはそこらへんの安アパートで撮れる。それを証明したのも素晴らしい。ドラムセットは最小限だし叩いてる吉川美冴貴の後ろがダイレクトに壁で狭そうだけれどな。
MVの最後で本当にレスポールが窓の外に放り出されて宙を舞う。良いな。美しいな。そして切ないな。まあレスポールと言ってもピンキリだし、使われたレスポールがいくらくらいのなのかは知らんけど、それでもギターが壊れている映像はそれだけで切ない。だが年末の紅白でKISSのポールスタンレーが演奏中にギターを床にぶちあててその衝撃でギュイイインという音を鳴らしてて、大丈夫かと思ってたら案の定数回のぶちあてでギターは真っ二つに折れてしまった。きっとあのギターは高い。具体的に幾らなのかは知らないけれど、きっと高い。それを惜しげもなく折って。あのパフォーマンスがKISSのステージでは恒例のものなのか、それとも紅白だけのハプニングだったのかはよく知らないけれど、あのポールスタンレーが折ったギターには、切なさがまったく無かった。きっと何倍も高いギターのご臨終だというのに、切なくなかった。それはいったい何故なんだろうか。話は逸れたが、このSHISHAMOのMVでブチ折れるレスポールは切ない。めっちゃ切ない。それはこの「彼」にとっての宝物だったからだし、大切なものが壊れるというのはとても切ないものなのだろう。しかもその壊れた理由が、彼女の「面倒臭い」衝動だったから、切なさも倍増したのだろう。
いいですか、SHISHAMOにのせられて、面倒臭い衝動に身を任せてはいけませんよ。
(2020.1.25) (レビュアー:大島栄二)