TOMOO『雨粒をつけたまま』
【もうルックスのことなんて気にせず、むしろ覆面アーチストになった方がいいのではないか】
美形シンガーソングライターのピアノ弾き語りによる1曲。感情を適度にセーブしながらも、出すべきところではしっかりと出す。その佇まいは端正なルックスとは似合わないくらいにロック。どうしてもルックスに気持ちを奪われがちだが、その本質は小谷美紗子のような実力派の系譜に入ってもおかしくないし、30年前ならポプコンでなんかの賞を取ってヤマハからデビューしていただろう。そういう「枠」が今の音楽シーンには明確にないし、ソロの弾き語りシンガーも多くて、そういう人向けのライブハウスもカフェライブもたくさんあって、このくらいの才能も漂流を余儀なくされているのかもしれない。過去の活動をチェックすると2年ほど前に公開されているMVに行き当たる。曲中で鍵盤を弾いているシーンはいくつかあるものの、それが中心ではなくて、TOMOOが踊りながら歌ったりしてる。制作者は彼女のルックスとキュートさを全面に押そうとしたのか、アイドルのMVのような作りになっている。プロモーション的にも動いたのだろう、再生回数は30万回を超えている。だが、個人的に見て、彼女の本質的な才能を伝えることには成功していない。というか、むしろ覆い隠しているかのようにさえ思える。もうルックスのことなんて気にせずに、むしろ覆面アーチストになるくらいの勢いで、音楽制作と表現に邁進した方がいいんじゃないかとさえ思う、極論だけれども。そうすることでリスナーの意識がより音楽そのものに集中するのなら、彼女にとってもリスナーにとってもハッピーな結果に結びつくのではないだろうか。かつてアイドルという枠は人気が衰え、その枠に憧れた人たちはグラビアタレントという入口からしか芸能界にいくことができなかった。それでもどうしても人前に出たいと思った人たちが頑張ってその入口で努力して、そのうちに安室が出てきて、SPEEDが出てきて、つんくや秋元康がアイドルグループという枠を作った。アクターズスクールに端を発した歌って踊れる少女を養成するコースは各種音楽専門学校にたくさんできていて、芸能界への入口を欲していたアイドル予備軍が沢山いたから、業界が枠を作ることもある意味必然だったかもしれない。そして今、アイドルグループの枠はあるものの、実力派シンガーソングラーターという枠は特に用意されていない。しかしさっきもふれたように、弾き語りシンガーソングライターたちは世の中に溢れつつある。したがって、そういう人たちが登竜門として向かっていく「枠」がいつ出来たとしてもまったく不思議ではないし、そういう時にその枠の中で確固としたポジションをつかんでいくのは、こうした歌と表現の力を持ち、それを信じて疑わないTOMOOのようなシンガーなのかもしれない。
(2019.4.29) (レビュアー:大島栄二)