アシノイヌ『ダンス・リー』【ハラハラしながらこういう原石の行方を眺めるというロックの楽しみ方】
ワイルドだ。とにかくワイルドだ。ワイルドはワイルドなりにワイルドのドレスコードをしっかりと押さえた上でワイルドなテイストを打ち出しているバンドはそこそこいるけれど、彼らはそんなの知らねえよとでもいわんばかりの素っ気なさ。このMVを見て、別にMVじゃないじゃん、ただのスタジオ練習風景じゃんという人もいるだろう。たしかにその通りだ。スタジオらしき場所に白い布を背景に張ってて、いや、紙かな。模造紙かもしれないし、まあどっちでもいいんだけれど、どっちにしてもセットとしてはかなり雑な感じ。だからといって彼らの音楽がその模造紙によってわずかでも価値が下がっているのかというとそんなことはまったくない。いってみればダイヤの原石みたいな状態で、磨けば光るのか、それとも磨いたところでただの石なのかもわからず。はてまた磨かれることさえ拒みそうな雰囲気の、でも何かを感じざるを得ない良さを、いや、良さの端緒みたいなものを放っている。しかも強烈に。彼らが今後もこのワイルドさを価値として前面に打ち出して多くの人を惹き付けていくには、多くの打算と我慢と周到さが必要になるだろうし、そんなの知らねえぜ勝手にやるぜと言いながら知らないうちに活動を放り出したりする可能性も十分にあるだろう。だがもしかするとその周到さでしたたかに活動の幅を広げていく可能性だってあるのだ。どうなるのかまったくわからないけれど、その不確実さにハラハラしながらこういう原石の行方を眺めるのも、同時代に生きるロックの楽しみ方なんだろう。
(2019.11.26) (レビュアー:大島栄二)