みゆな『進め』
【苦しいタイミングでこういう歌が流れてくるかどうかということも、多分運命なんだ】
ラグビーで盛上がった2019年10月。いやあそりゃあ盛上がりますよね、あんなに強敵相手に勝ち進むと。力をもらえるとか、いや、あなたスタジアムやテレビの前でワアワア言ってただけでしょ。オレも頑張れば高い壁を乗り越えることができるって、否定はしませんけれども、それには高い壁につりあう程度の努力がやはり必要ですよ。
7歳の息子もテレビの前でワアワア言ってて、「僕がラグビーの選手になって日本代表になったら? ニュージーランドに勝ったら?」とか聞いてきて。そりゃあお父さんスタジアムに観に行くさ。海外での試合でも観に行くさと言いますが、そんなことが簡単に現実になるとは思っていません。だって、ついさっきまでは「僕がフォースを使えるようになってパルパティーンをやっつけたら?」とか言ってたんだから。まあ、フォースを使えるようになるよりは、日本代表になってニュージーランドを倒す方が可能性高そうですけれど。
松坂が甲子園で大活躍したら野球選手になりたいという子供たちが増え、それまで社会人リーグだったのがプロのJリーグとしてスタートすればサッカー選手になりたい子供が増え、ラグビー日本代表が予選リーグを突破すればラグビー選手になりたい子供が増える。それはそういうものだし、たまたまそういう時代や時期に感受性の強い子供でいたということも一種の運命だろうから、まあ、やってみれば良いのです。いや、うちの7歳児は結局やらないんじゃないかなあとは思ってますけれど。
そうやって大量に子供選手が誕生して、全国のチームで膨らむ夢を抱えて練習に取り組む。全員の夢よ現実になれと思うけれど、現実はそう甘くなくて、地方の弱小チームの中でさえ上手下手の差は明確につく。弱小チームで頭角を現した選手たちは上の強いチームに移り、また競争を繰り返す。世の中には才能に溢れた人はたくさんいるわけで、そういう人に出会わないうちは自信満々天狗の鼻でいられても、限られたセンスを発揮すればするほど、すぐに自分よりも才能に溢れていそうなライバルに出会って、高かったはずの鼻は簡単にへし折られる。鼻がへし折られた時に心まで折られてしまったら、選手生命はそこで終わるはずで、悔しさのただ中で上を向いて歯を食いしばれる人だけが、次に進む権利を得るわけです。もちろん、権利だけなのであって、行ける保証なんてまったく無いんですけれど。
人は誰しも何かに取り組んで、結果を出して生きていく。良い結果かそうでないかは別として。たとえ良い結果に至る運命の人も、結果が出るまではどんな未来なのかはわからないので、常に不安。時として逃げ帰りたくなるもの。もちろん逃げ帰ったって良いんです。もしかしたらその道は自分には合ってないのかもしれないし。でも、苦しみつつ前に進むかそれとも後ろにダッシュするのかの分かれ目のところで、本当にどっちにすればいいのかわからなくて混乱してるとき、こんなちょっとした歌が流れてきて、混乱している脳の中に染み込んでしまったら、そりゃね、前に進むしかなくなっちゃいますよね。そういうタイミングでこういう歌が流れてくるかどうかということも、多分運命なんだと思います。もちろん歌はあなたの人生に責任など取りませんので、自己責任で、前に進んでください。誰かはきっと応援していますから。
(2019.11.4) (レビュアー:大島栄二)