日食なつこ『四十路』
【ちゃんと怖いかい?ちゃんと不安かい?】
日食さんの新作MVが公開されてて、ずいぶん久しぶりだなと思ってたら、そのひとつ前のを見落としてた。それがこの『四十路』。長かった髪をバッサリと切って、印象がまったく違ってた。でも、やっぱり日食なつこはまったく変わってない。というか、より磨きがかかった感じがした。何かにチャレンジする者へのメッセージのような曲。YouTubeの動画ページには自身のコメントがあり、そこには、「元々ゼロから音楽を生み出す自分たちの生き様を歌った歌でした」とある。
覚悟を自らに課す。そうでもしないとくじけそうになるから、あえて口にし、自らを戒める。わかる、わかるわ〜。人生なんて理想通りになどいかないもので、多かれ少なかれ誰しもが挫折を味わう。その挫折にも、それまでに貯めてきた何か、あるものはプライドだったり、あるものは小銭だったり、そういう何かによりかかり「自分にはこれがあるから逃げ切れる」とか「自分はまだマシ」とか自らを慰めて現実から目をそらしたくなる。そんな弱さにガツンと一発喰らわせる歌。もちろん辛く苦しい時には逃げたり目をそらした方が良いこともある。それを無視して他人が叱咤や鼓舞ばかりするのはNGだ。しかし、往々にして自分で判っている。その逃げが、逃げるべき絶対悪からの当然の撤退なのか、それとも自分の弱さに逃げ込んでいるだけなのか。だから日食さんも歌うのだ。
怖さや不安に目をそらしてしまうと、やはり何かに立ち向かえなくなる。怖いことを理解して、正面から立ち向かう。自分はその怖さを乗り越えられるのか、乗り越えるべきなのか。
そんな鼓舞する歌を歌う日食なつこも音楽を作り表現していくことに怖さや不安を感じたりしているのだろうか。四十路にもなればいろいろ不安は増すよなあなどと思ったけれど、この曲を作った約1年前の日食なつこはまだ28歳。28歳に四十路の不安を歌われて、しかもグッとくるなんて、ちょっとビックリした。以前の彼女の曲がそこそこ速いテンポで攻撃的なサウンドで聴く者を叱咤していたのに対し、この曲はかなり意識してゆっくりと演奏し、ひとつひとつ確認するように歌っている印象で、音楽的にずいぶん変わったなあと感じ、それが、だいぶ年齢を重ねたんだと錯覚させたのかもしれない。まだ20代なのに。すごいなあ。本当に彼女が四十路になり、その時にもまだ歌を歌い続けていたとして、その時にも感じる怖さや不安は同じだろうか、それとも違った種類の怖さを感じるようになっているのだろうか。そんなことを、四十路ならぬ五十路のオッサンは思ったりする。
(2021.3.20) (レビュアー:大島栄二)
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