TOMOO『ロマンスをこえよう』
【こういうグッとくるバラードにこそ将来性を感じてしまう】
2年前に取り上げたTOMOOのバラード。このところインスタの更新が頻繁だなあと思っていたらシングルがリリースされたとかで、その『HONEY BOY』という曲は思いっきりなポップナンバーで、ああ、こういうのやるんだなと思いつつも、悪くない。いや、むしろイイ。単に明るくポップな曲をやったというだけじゃない、曲の出来の良さが際立っていて、ああ、この人はただ前面に出て歌う人なのではなく、曲を作る人なんだなあとあらためて実感した。曲を作る能力がある女性シンガーが明るく思いっきりなポップナンバーをやっているのを見るとどうしても竹内まりやの『不思議なピーチパイ』を思い出すのだが、あの時竹内まりやはピンクのジャケットにスラックスという衣装であのポップな曲を歌っていて、このMVでTOMOOも似た格好で、オマージュなんじゃないかなと、たとえそうではないとしても、ついつい思ってしまう。で、竹内まりやは初期にあの曲を歌ったことで注目を集め、その後シンガーソングライターとしての地位を築いていくのだが、周知の通りずっと明るくポップな曲ばかり歌ったのではなく、むしろそういうのは極めてレアな曲だった。本格的ポップミュージシャンとして優れた曲を書いては歌った。アイドルたちへの楽曲提供などもそつなくこなしたが、やはり彼女の本領は重厚なバラードだったような気がする。そういう視点から見ても、TOMOOの歌うこういうグッとくるバラードにこそ将来性を感じてしまう。2年前に紹介したキーボード弾き語りの曲にも曲作りの才を感じたが、今この曲と較べて聴いてみると構成もシンプルすぎて単調に感じられる。力でグイグイ押しているだけのようにさえ思えるが、この曲の構成、メロディの起伏の豊かさ、声を張るべきところと押さえるべきところがちゃんと分けられていて、そのことで表現される感情が何倍にも深まっている。すごいなあと思うし、ますます実力派シンガーソングライターとしての将来性を感じさせてくれる。
彼女のチャンネルの登録者が現時点で1.77万人で、この曲の再生数が3ヶ月で11万回。ただ公開して自然に見てもらえているというよりは何らかの宣伝がかかっていると見るのが普通で、もちろんそれは当たり前だし良いのだが、明るくポップな『HONEY BOY』の方は2週間で15万回の再生。宣伝の力の入れ方がそちらにシフトしているのがよくわかる。もちろんリリースタイミングとMVの公開時期の問題もあるだろうし、竹内まりやでさえスマッシュヒットは不思議なピーチパイだったわけで、彼女やスタッフが戦略としてそうするのはまったく間違ってはいないと思う。だが、観る側聴く側がそこで終わってしまったら本当にもったいないなあと思う。なぜならTOMOOの注目すべきポイントはルックスだったりキャピキャピしたところではなくて、彼女の作品そのものにあるからだ。
(2021.4.2) (レビュアー:大島栄二)
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