玉置浩二『花束』
【感情を120%溢れさせながら歌うパフォーマンスで今も新曲が聴ける喜び】
玉置浩二という人はそのエキセントリックさでもつとに目立ってて、そのエキセントリックさは長渕剛、宮本浩次といったあたりとともに横綱級だと個人的に思っている(本当にすみませんすみません!)のだけれど、そんなにエキセントリックな3人にもう1つ共通する点がある。それはずば抜けて歌が上手いということだ。社会性に長けててスタッフの皆様を困らせるようなことなどなくむしろ好かれちゃうような人であればそこそこの歌唱力でも厳しい音楽業界を生き抜いていくことはできるだろうが、エキセントリックな人はそれ故に迷惑をかけることもあるだろうし、もうこの人とは一緒に仕事したくないと考える人も出てくるはずで、それなのに長いこと生き抜いていけるのは、やはりシンガーとしての実力が抜きん出ているからに違いない。
その玉置浩二の音楽活動の始まりが一体いつなのかというのはなかなか難しい。安全地帯の結成は彼が中3の時だし、安全地帯が井上陽水のバックバンドとして音楽でメシを食い始めたのはそれから8年後のこと。それをプロデビューというなら今年40周年だし、バンドとしてメジャーデビューしたのがそれというのなら今年は39周年ということになる。その後ソロになり、1年ほどの活動休止時期はあるにせよ、ずっと活動を続け、昨年末には久々にアルバムをリリースし、こうして新曲のMVも公開される。そして聴く。上手い。上手いというとちょっと違うなとも思う。歌は肉体を楽器にしたパフォーマンスで、ある意味アスリート的な要素がある。スポーツ選手が肉体の衰えとともに引退するように、シンガーも若い頃と同じようなパフォーマンスをいつまでも出来るはずがない。懐かしのスターが久しぶりにテレビに出てきて歌ってるのをみると心から悲しくなることはよくある。ああ、衰えたなと感じてしまうのだ。もちろん玉置浩二も多少衰えた。だが、多くのベテランシンガーに感じるような悲しさはまったく無い。歌い続けてきたから故のテクニックで、全力を出さずとも聴かせる歌唱をこなしている。だがそれは他のほぼすべてのベテランシンガーもやってることで、驚くようなことではない。玉置浩二の場合、全力を出していない歌唱が既にパワフルで、ベースとなる声に力がみなぎっている。つまり、圧倒的なのだ。39年来のファンは、この圧倒的な歌唱に今も接することができて幸せなはず。感情を120%溢れさせながら歌うことができるパフォーマンスで、今も新曲が聴けるというのはとても幸福なことだ。
(2021.4.10) (レビュアー:大島栄二)
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