まん腹『はるかな』
【秘した想いを秘したままの感情で表現できるという稀有な歌声】
6年前に個人的最高得点(?)獲得のライブ映像『どうせもう』をレビューして、以来その消息がまったくつかめなくなっていた幻のバンドまん腹。いや、勝手に僕が見失ってただけだけど、今こうして新曲MVを目の当たりにして、過去の活動について探ってみると、2015年の3曲入りシングルをリリースしてから次の作品がリリースされるまで3年が経過していて、ああ、僕が見失ってたこともある意味しようがないことではあったのだなあと納得。とはいえ、3年もリリース活動が滞っていたら普通解散するし、積極的に解散しなくても、自然消滅するのが普通で、それなのによくぞとどまっていてくれたよなあと、感謝しかない。先月ニューアルバムも出したとか。感激しかない。
その前回のレビューではライブ映像だったからか歌もところどころ揺れるというか、音が外れるというほどではないにしても不安定なところもあって、それがかえって独特の味を生み出していた。主人公が一方的な恋心に終止符を打たなければいけないという内容の曲で、断ち切れない想いと、それに見切りをつけるのだという強そうで切ない想いとが交錯する揺れを、歌い方の不安定さと結果的な投げやり感がとてもフットしててとても良いなあと感じていた。それと比べると、今回の曲はきちんとしたレコーディング音源だからなのか、それとも6年間の成長の故なのか、とてもスッキリとしたクリアな音源となっていて、安定した歌唱が、さらには演奏も格段に安定している。安定しているから聴く側も安心して聴くことができる。そのクリアに向いたベクトルはもちろん間違いなどではないし、不安定さを残したままの音源をリリースするのはある意味ありえないことだから、もちろん正解なのだけれど、それによって多少「普通」になっているのかもしれないなあと、少しばかりの寂寥感を覚えずにいられない。
だが、それはライブとレコーディングの違いというものを無視した勝手な思いに過ぎない。冷静になって聴きなおすと、ボーカルのわぴこさんの独特の声は、秘した想いを秘したままの感情で表現できるという稀有な響きを持っていて、それ自体はライブであろうがレコーディングであろうがまったく変わることのなく、6年前も今も歌として響き、こうして僕らの耳に届いている。今のライブでの歌が、変わりなく不安定さを見せているのか、それともレコーディングのように安定的な響きを聴かせているのか。それを確認するには彼らのライブに行けばいいこと。音楽という言葉は同じでも、ライブとレコーディング音源は違うのだし、両方別のものとして楽しめばいいのだということを、彼らのMVは改めて教えてくれているようだ。
(2021.4.20) (レビュアー:大島栄二)
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