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熊木杏里『誕生日』
【とても優しく強いことを歌っている】

誕生日なんて365日のうちのただの1日で、だから他の普通の日とどこも変わりやしない。そりゃそうだ。歳を重ねてくれば自分の誕生日のことなどどうでもよくなるし、そもそも自分が何歳だったのかさえあやふやになる。でも、小さな頃には誕生日はやはり特別な日で、プレゼントがもらえるしケーキも食べられる。大きな人たちがおめでとうと言ってくれる。何がおめでたいのかは突き詰めて考えたりしないけど、そうか、おめでたいんだ、誕生日って。そうすり込まれる。すり込まれた体験がある人は、幸せなんだ。

熊木杏里のこの名曲は、誕生日の記憶はあるかとまず問うてくる。そりゃそうだ、自分が何歳なのかさえあやふやな人間に、過去の誕生日の記憶が明確なわけがない。それでも、思い出せと問うてくる。誕生日であることが特別なんじゃなくて、誕生して今ここにいることが特別なんだと迫ってくる。迫ってくるといっても圧迫的な感じではなく、とても優しい歌声で。優しい歌声に誘われて、少しずつ思い出す。自分もまた特別だったということ。ここにいるだけで良いんだということを。

まだ自分に子どもなどいなかった頃にこの歌を聴き、この歌は誕生日に花束を贈ろうというCMで使われていて、ああ、キャンペーンの歌なんだなと聴き流した。聴き流すにしてもあまりに良い歌で、ことあるごとに流れてきて、その度ごとに良い歌だなと感じた。その良い歌というのは、歌唱という意味で、歌の内容にまで気持ちが向かうことは実はなかった。だが今回改めて聴いてみると、ああ、生きる上で自己肯定感というものが重要だといわれている今、この歌はとても優しく強いことを歌っているのだなあと理解できた。大人になって誕生日のことを容易に思い出せるように、ことさらオーバーなくらいに祝ってあげなきゃなあ。

(2021.6.19) (レビュアー:大島栄二)


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Posted by musipl