宇多田ヒカル
 
『あなた』
 永い、永い2017年ももう眠る。
 永いのはこれからも続く問題が山積しているからで、そのあとに目覚めずにクリスマスも年末もシームレスにどこかの誰かの予定と、悲しみの時代を生きる覚悟に回収されていって、それが、社会内階級化が可視的に進む日本でも、「あなた」を通じて絶対性を帯びるのだろうか、とは願いと迷妄を往来して。……
 
  (レビュアー:松浦 達)  

 
『二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎』
 ええ、スゴいですよ。2人2様の武器みたいなのを惜しむことなく繰り出して相手をなぎ倒そうというような迫力を感じます。冒頭宇多田が全然笑ってない笑顔で淡々と歌ってて(もうこの時点でコワい)、そこに被ってくる椎名林檎の「何、その程度なの?」と言わんばかりの無表情。そして2番でがっつり響かせるリンゴソロ歌唱。この人の声はやっぱ迫力ですわ。第一声でKOしちゃいますわよ的なインパクト。その一撃をさらりとかわして微笑む宇多田。ホントコワい……
 
  (レビュアー:大島栄二)  

 
『忘却 featuring KOHH』
 冒頭、いきなり男性の声でラップが始まる。誰だこの兄ちゃん? Kohhというラッパーは実は有名な人なんだけれども、ほとんどの宇多田のファンにすれば「誰だそれ」だよねきっと。で、この人の言葉がけっこう刺さる。この人が歌うラップパートは宇多田ではなくKohhが書いているらしい。もちろん確認とか了承とかはあっただろうけれども。宇多田ヒカルとKohhが交互に並べていく言葉には厭世観がある。突き刺さる。その内容とか背景とかについてはもういろんな人が……
 
  (レビュアー:大島栄二)  

 
『traveling』
 国民的歌手ともいえる重い悲哀と、微かな希い的な何か。このようなタイプキャスティングされた言葉を附箋の役割にしないといけないくらい、嵐の季節に彼女は颯爽と戻ってきた。「花束を君に」、そして、「真夏の通り雨」。二曲とも、散り生きて、咲き活きてまた見えてくる象徴のひとつとして、陰と陽といった明確な印象でもなく、混ざり合って、そのままに悲しく、慈しみ染み入りながら、歳を重ね、新たな家庭を築く中で自然と出てきたようなたおやかな母性が温かい……
 
  (レビュアー:松浦 達)  

 
『Goodbye Happiness』
 一昨日のレビューで「藤圭子の声のキレと和田アキ子のパンチ力が生み出す清々しさ」というキャッチを書いたら藤圭子の歌を聴きたくなり、YouTubeをいくつか。自分のその言葉は間違っていないのかを確認したかったから。若い頃の藤圭子の表情は哀しみを一身に背負ったような感じで、一方後年に歌番組で歌う表情はそういう背負いがすべて取れたようなあっさりとしたもので、同じ人なのかと不思議な気分になる。藤圭子の娘である宇多田ヒカルは1998年の衝撃的な……
 
  (レビュアー:大島栄二)