マッシュとアネモネ『シーサイド』
奥田民生『世界の終わり』
THE BINARY
『Unhappyを愛さないで』
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サウンドが気になる。速射砲のような音の嵐。それなのにただうるさいというわけでもなく、速い音の中に鍵盤には静寂のようなテイストが漂っている。誰だこのバンドはと思ってもバンドHPなどは見当たらず、謎のまま。それなのにこのTHE BINARYのチャンネル登録者数は7750人もいて。リンクのあるTwitterアカウントだって3205フォロワーなのにだ。謎のままでは気持ち悪いのでMVの画面をスクロールしていくと、コメント欄には「ユリイさん」「ろくろさん」の文字が並んでいる。検索すると、そうか、ニコビデオの人か、ボカロの人なのか、ということがわかる。niconicoの方でユリイさんが1.6万人のフォロワー、ろくろさんは7900人のフォロワー。そこからTwitterに飛ぶと、ユリイさんは4.6万、ろくろさんは1.7万のフォロワーがいた。おお、有名人じゃんか。
アーチストが有名であるかどうかと作品のクオリティーが完全一致するわけではないだろうが、大手メディアで大々的にプロモーションしているわけでもない人がその世界で万を超えるフォローを集めるのは、やはりそれだけ注目する人がいるということであり、彼らの創作や作品のクオリティが認められているということである。有名かどうかというより、有能かどうかという点で、客観的に見ても優れているということは間違いないだろう。
そのろくろさんが作曲したというこの『Unhappyを愛さないで』。ろくろさんがTwitterで「当時色々と疲弊しており「人に曲なんて書きたくねぇ」と思う反抗期真っ只中だった」とツイートしている。midoというTHE BINARYのボーカルは「笑うから幸せなんだ」「人生って自分の思い通りにはいかなくて、理不尽だらけで絶望してしまうけど、まだ足掻いてみようとしちゃって」と書いている。速射砲のような言葉の羅列は、具体的なシーンを描写しているわけではなくて、漠たる言葉を綴っているに過ぎない。だがそんな中で曲のタイトルでもある「アンハッピーを愛さないで」というフレーズが繰り返されていて、結局はそのメッセージこそ彼らが伝えようとしている本文なのだということがおぼろげにイメージされてくる。映像ではまっくろくろすけのような怪しい存在が社会の至る所に存在していて、主人公の人生を侵蝕していく。この何やらわからない黒くて悪のイメージの存在と、彼らは戦いながら生きているのだろうか。黙っていたらいつの間にかアンハッピーと不可分な人生が待っていて、そこから逃れられなくなってしまうというのか。そりゃあメッセージで「そうならないように」と訴えたくもなるはずだ。それは単にリスナーに対してだけではなく、表現をする自分自身に対しても。
そんなこんなといろいろ書いてはみたものの、解らないことばかりだ。知人の子供は音楽体験の多くをボカロから得ていると言っていた。ボカロ出身の米津玄師がこれだけ大活躍している時代なのだから当然だ。しかしボカロワールドが地上波テレビで大々的に放送されているわけでもなく、知らない人にとってはまだまだ知らない世界であり、そこでの支持のされ方、視聴のされ方、広がり方など、門外漢にはまったくわからない。しかしそういった仕組みがわからないことと、表現されている音楽の善し悪しについて判断できるかどうかはまた別のことであり、少なくともこの楽曲は良いなということだけは言えると思う。
(2019.10.4)
(レビュアー:大島栄二)
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