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H△G
『桜流星群』

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 実写と線描が重ねられるMV。実写はリアルかというと、多分リアルなんだけれども、実際に目で見ている光景とはかなり違ってて。目で見えたはずのものが写真にはどうしても写らないし、見落としていたようなものが写真には写っていたりする。桜もそうだ。それまで色の無かった木々に桜の花が咲いているのを見ると、うわあという気分になる。驚く。桜が放つその圧倒的な生命感に気分をすっかり変えられてしまう。昨今はスマホで写真だ。インスタ映えするだろうと誰もがスマホを咲き誇る桜に向けるが、小さな花の集まりのその木を一部切り取っても実際に受ける圧倒的な力はもうそこには無くて。かといって木の全体を写してみても、それが桜だということさえわからない、ぼんやりとピンク色の何かにしかならない。本当に桜というのは写真に写すのが難しい。だからこの実写に線描を重ねるというのは、もしかするとリアルを再現するための最善の手法なのかもしれない。
 このMVで写されているのは川の土手に生えている名もない桜の木で、いってみればどこにでもある桜だ。京都に暮らしているとあちこちに有名な桜の木があって、それらを見るために日本中からガイドブック片手の人たちがやって来る。彼らは目的の有名桜に向かってまっしぐらで、途中にもそこここに咲いている無名な桜のことなど気に留めることもない。本当は有名無名に関係なく桜は桜で一生懸命にそこで咲いているのに、もったいないと思う。
 しかし桜という花が日本人にとって特別なものである分、他の花が気にも留められないということもあるわけで。桜に意識を割くなら、ほぼ同時期に咲いている雪柳や、直後から咲く山吹にももっと愛でる気持ちを回せばいいのに。しかし友人のインスタにそういう花が並ぶことはほとんど無い。
 大きい物語、という。有名なものや目立つものに人は心を寄せる。全国ニュースで報じられる悲惨な事故には可哀想と思うけれど、被害が同程度なのに映像が無いために報じられない事故には思いを寄せることは無い。でもそれらにも人の命はあるし、無名の花にも美しさや生命はある。それらすべてに意識を向けることは現実として不可能だから、やはり有名なものばかりに意識を向けていたからといって非難されるようなことではないのだが、だからといって無視していいものとしてとらえるのではなく、そこにも命や価値はあるのだと、時折思い出したりできる自分でありたい。
 この曲で歌われているのは少女の悔いやそこからの希望のようなもので。匿名の心模様は省みるに値しないのではなく、その人には何よりも重要なことがらで、それをChihoのボーカルが包み込むように歌っているのがとても暖かくて心地良い。その無名な少女の心模様を見守っているのが、大きな物語なのか小さな物語なのかよくわからない、地方の無名の桜の木というのがとてもいいバランスになっているように感じる。
(2019.5.13) (レビュアー:大島栄二)
 


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