ロック・バンドといえるのだが、ザックやメンバーたちが扱う楽器はトランペット、アコーディオン、チェロ、ウクレレなどで多岐に渡り、吹奏楽に鍵盤楽器、エレクトロニックな要素も違和なく入ってくる。前作にあたる2015年の『No No No』は9曲で2、3分台の曲で、ストイックな、というか、ソリッドで幅広さよりもそれまでにないポップさに焦点を当てたような内容で、「No No No」のMVにしても、遊び心とともにすっと入ってくる。派手さはないが、絞られた内容で、その背景にはザックの累積してきた疲弊や公私とものトラブルなどがあったようで、そして、この『Gallipoli』へ至るまでのノートは公式のHPに綴られている。(注:日本語でも読める)
ニューメキシコ州サンタフェにある両親の家から、ニューヨークの自宅に送ってもらったファルフィッサのオルガンで2016年終わりにアルバムにつながる一曲を書き始めたこと。2017年の春にブルックリンのスケートボードで滑ったときに左腕を骨折し、意気消沈し、ベルリンで何もしないでおこうと決めつつ、突然のひらめきで移住したこと。ベルリンでの録音環境や創作意欲も悪くなく、作曲を続けたこと。そして、巡り、バンド・メイトのニック・ペトリ―とポール・コリンズ、『No No No』でのプロデューサーも担当したガブ・ワックスと2017年10月にイタリアで落ち合い、ブーリア州ロッチェでのレコーディングに入るなど、事細かに書かれているのでもし興味がある方はHPを見てみてほしいと思う。ベイルートらしく、ノマドに、しっくりくる場所でのインスピレーションを大切にしながら、紡ぎあげた一つ、この「Landslide」はすばらしいと思う。じわじわと反復の中で陶酔をもたらせるオルガンの響き、コーラスの幽遠な奥深さ、壮大な展開にはこれまでのベイルートにはないものも存分に感じ、声のやさしさに乗せて歌われる詩も心に沁みる。様々な境界線を跨ぎ、動き続けているベイルートのようなあり方が、凝り固まりつつあるばかりの世界の基準線や価値観のうねり、物騒な予兆の束をすこしばかり相対化していってくれることを願いながら、過去作とのクロスオーバーたる因子も感じられるだけに、ベイルートの音にひたり、より良いヴィジョンに想いを馳せる日があってもいい気がする。
If you ever return
In a wonderful form
Don't you wait out the storm
Just pollute and move on
(「LandSlide」)