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古内東子
『Enough is Enough』

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 デビュー25周年の古内東子。それにしてもずいぶん久しぶりのリリースとなるオリジナルアルバムがつい先日、そしてベストアルバムが来月リリースと25周年イヤーにふさわしい展開になってきた。この久しぶりの間に結婚出産をされている様子。1990年代中頃にヒット曲を飛ばし、恋愛の神様と呼ばれたりした彼女。当時は女性の総合職も登場するようになり、折からのバブルからその崩壊という経済状況の不安定に振り回されて頑張ったり挫けたりした女性たちも多かった。そんな時代背景で古内東子をカラオケで歌い、恋愛というモードにひと時の安らぎを求めた人も少なからずいただろう。このMVに古内本人は登場せず、代わりに働く女性たちが多数出てくる。高層のオフィスビルから都会の街並を見下ろす。ヒールを履いた女性が都市を歩く。彼女たちが90年代の働く都会女性のその後なのか、当時の姿なのかはわからない。ともかく出演する女性たちの表情がすべて活き活きとしていて美しい。歌詞ではおそらく独身であると思われる女性が、幸せな友達を見て昔好きだった人を思い出し、「こんな夜に会いたいって言ったら返事をくれますか」と独り語りする。ここで歌われる幸せというのは一体なんだろうか。独り身で自由がある今の生活が最高のはずなのにと言いつつ友達を幸せだと言う。それは結婚した人生を幸せと言っているのだろう。もし、結婚が幸せで独身が不幸せだと断言できるのであれば誰も悩むことなどないだろう。だが結婚したところで不幸せなこともあるし、独身だって不幸せなこともある。ケースバイケースなのであって、どちらの人生が絶対に正しいなんてことは、結婚に限らず断言することなど出来やしない。若い頃にはこちらだと思って進んだ道。それが間違いだったとまで思わなくとも、その道を選ぶことで手放した可能性もあったわけで、そのことを想い、人は他人を羨んだりするのだろう。ヒットを飛ばして忙しい歌手活動の時期を過ぎ、結婚して出産をした古内東子がこうして久しぶりに出す歌で、その選択はどうだったのかと人を悩ますような問いかけをする。恋愛の神様の信者で居続けるのはなんと切ないことだろう。タイトルの「Enough is Enough」というのが禅問答のようで興味深い。龍安寺にある有名な手水鉢にある「我唯足るを知る」という禅宗の言葉を彷彿とさせる。人は欲をかかずに今が十分だということを知るべきだ。とはいえそう簡単にいけば苦労などしない。MVの最後でオフィスビルから下界を見下ろす3人の女性の表情が、笑顔から徐々に微妙にこわばっていく。Enough is Enoughを自分に言い聞かせようとしている内心が滲み出ているようにも見えて切ない。
(2018.11.10) (レビュアー:大島栄二)
 


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