ザ・ビートルズ中期のサイケなハネ、ザ・フーの初期のビートニク、ブリティッシュ・インヴィジョンなリズムにモッドなセンスがうねる。途中、繰り返される「Go Let It Out!」とはかのマンチェスターの世界的なバンドの過渡期と言えなくもなくないシングルのフレイズ。立ち並ぶ墓場には多くの偉人たちが眠り、忘れ去られる瀬で、それをずっと忘れずに居られるのは難しい。だからこそ、キャリアを重ねて、悼みを尽くして、それでも演奏を続けてゆくバンドが背負う声の質量が気になる。 2018年になって、くるりは、爽涼に随分、過去の曲を今に更新してみせる。無邪気さを大人の外連味に変えて、そこからの何かしらのシンプルな捻じれに写像して。くるりが日常に寄り添うロックンロールというよりは、アートに近いものを作品ごとに感じるのは過去からの遺産群を昇華させるだけではなく、デヴィッド・ボウイ的なサウンド・オヴ・ヴィジョンに明確になってきているからだとも思う。「だいじなこと」を聴いてフィル・スペクターや大瀧詠一を想い出すのもわずかに悲しいけれど、この「忘れないように」のリズムが程よく緩和してくれる。麻酔みたく、過酷な現実群を、ふとスタジオから許すのも音楽の抗生物質なのかもしれないと思う。治らない病は尽きなくても、治らないわけではない未来を忘れないように、どうか。
呼吸幅と合わせて、靴紐を結び合わせて行けばどこまでも行けそうな気がする。ミドルライフ・クライシスとソングラインの中にエヴァーグリーンが浮かぶ青みを、忘れないように。跳ねていけばいい。Go Let It Out.