634noHz『知らない』 Next Plus SongLin Ton Taun『Erasua faxista』

おかありな
『imadakekoibito』

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 おかありなの曲を最初にレビューしたのは2014年の6月で、だからもう3年半ほど前のこと。当時彼女が住んでいたと思われる三重県名張駅前からスタートするMVはとてもポップでキュートで。そんな彼女が地元で笑顔をふりまくその姿がもうアイドルですよねと書いた。ひらがなだけのそのアーチスト名は関西圏のライブハウススケジュールでもたまに見かけ、そうだよなあ、三重県だとライブハウスシーンってかなり限定的だし、大阪か名古屋に行かなきゃやってられないよなあ、駅前で笑顔でいるだけでは先は見えないよなあと思ってみたりしてたけれど、それからしばらくして三重県を離れて東京に行っちゃった。東京に行けば成功が近づくなんていうのは神話というか妄想でしかないのであって、だって東京にいる若者の多くがバイトバイトに明け暮れながら全然成功していないのだから、ああ、またひとり東京に吸い寄せられていったなあと、そんなことを思ったりした。
 そして、しばらく忘れていた。
 musiplでは過去のレビューもTwitterで繰り返し紹介している。そのツイートから、彼女の3年半前のレビューがたくさん見られるようになった。たくさん見られれば、曲も聴かれる。デイリーランキングにも入る。それをまたリツイートなどが重なり、パチンコでいえばフィーバー状態が数日続いた。そうして、僕はまた彼女のレビューを書こうと思った。
 以前のMVの舞台だった名張は、僕が住んでる京都から奥さんの実家松阪に行く時に通過する駅で、時々乗り換えをしたりする。そのたびに「ああ、ここがあの曲のアレかあ」と思う。降りて改札を出ることはないのでMVのシーンを目にすることは無いのだけれど。まあその程度の親近感(殆ど無いに等しいけど)が彼女にはある。そんな彼女の、これは東京に行っちゃう直前の曲のようだ。どこかの、マンションかなにかの白タイル張りの壁の前で、おそらく自撮りによる一発撮りビデオ。チープである。とてもチープである。だが、これでいいと思う。MVはMVそのものが作品であるべきという考え方もあれば、曲を聴いてもらうきっかけとして映像がありさえすればいいのだという考え方もある。予算がふんだんにあるなら豪華なビデオを作れば良い。だが豪華なビデオを作るために音楽そのものにかける予算が削られたり、必要以上にバイトを入れて活動の時間が削られるのでは本末転倒だ。それならばスマホで一発撮りした映像に曲を重ねた方が、音楽を活かすことにつながるのではないかと思う。
 この曲はおかありなが嘘の無い心の内を吐露するような内容で、それ故にピュアだし、聴いててドキッとする。奏でられるギターの音がとてもクリアで、曲の舞台となる冬の朝の清々しさと、彼女の心の背景のような空間をよく現している。この感じは、前野健太の朴訥さにも似ていて、こういう正直に感じさせる罠のような世界観を好きな人たちはたくさんいるのではないだろうか。シンプルでチープなビデオも、その世界観を代弁するような仕上がりになっていて、これは予算をふんだんに使ったのでは絶対に出せない秀作だと思う。  東京に行ったおかありなは、その背景などはよくわからないけれども、今度社長になるらしい。クラウドファンディングで資金を集めてどうとか。まあその仕掛けが有効なのかどうなのかはよくわからないけれども、溢れるユニークさとインディペンデント魂で、そのピュアっぽい世界観をシンプルに紡ぎ出していってもらいたいと願うばかり。
(2018.1.27) (レビュアー:大島栄二)
 


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