LUCKY TAPES『Gravity』
ORANGE POST REASON
太田裕美
『君と歩いた青春』
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朝ドラ「ひよっこ」で流れてきた挿入歌。なんともシンプルでなんともコミカルなその歌は「好き好きすー好きっすー」と繰り返しててすごく印象に残る。印象に残るのはその曲がもっているユニークさだけではなく、歌声そのものだ。舌足らずなその声、太田裕美だ。こんな声は他に無い。若い頃のこの声だけじゃなく、還暦を過ぎた今の声も同様に太田裕美。当たり前といえば当たり前すぎることだろうが、歌は肉体を使うアートだということを考えれば驚異といっても不思議ではない。ドラマの中でも主人公のピュアな気持ちと、ドラマとしてのコメディー色を表現する上で破壊的なまでの効果をもたらしていた。
その太田裕美の曲といえば大ヒット曲「木綿のハンカチーフ」だが、この曲が好きだという人も少なくない。昭和の巨匠コンビといえる松本隆+筒美京平コンビで作られた「木綿」など初期の彼女の曲と、伊勢正三作のこの曲ではイメージが大きく異なっている。また、伊勢正三が風で歌ったバージョンと太田裕美のバージョンも、同じ曲なのにまったくイメージが異なっていて興味深い。それにしても、作者が違っても内容としては男性側の身勝手な別れを女性が理解してくれるという内容だったというのが共通していて、彼女の舌足らずなボーカルが生み出すか弱さのイメージがそれを受け入れる、そういう曲が多くの男性リスナーにウケたというのが、1970年代という時代の価値観をよく現しているなあと思う。それにくらべて2017年のドラマでは、そのコケティッシュな声が歌う「好き好きすー」という意思表明があまりにもストレートで、女性の意志がその中心に据わっていて、時代の変化を感じずにはいられない。1967年を描いたドラマでは、50年後の2017年を「どんな時代になっているんだろう」と想いをはせていて、セリフで語られていた自動車が空を飛ぶみたいなことはまったく起こっていないのだが、そんな派手な現象ではなく地味なところで、女性は着実に変化をしていたんだなあと思わずにいられない。
(2017.9.30)
(レビュアー:大島栄二)
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