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GRAPEVINE
『Arma』

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 文学的な、という形容詞が無化している瀬にでも、有名な芥川龍之介や太宰治、または永井荷風などの古典群でも擦りきれるほどに多くの人たちに深く耽読されていったり、いや、それこそ海外文学全集みたいなものはどうなってゆくのだろうかと杞憂を持つ。書店員の知己に聞けば、USの現大統領のスピーチ集は前氏のより世代問わず、参考書的扱いで売れているという。要は「分かり易い」からだとも敷衍しながら。伝わる、のと分かり易さは等比されないはずなのだが、どうにも「武器より花を」と時にステイトメントした方が“羽根”が生えるようだ。さかしまも然り。

 GRAPEVINEというバンドは兎角、デビューのときから「文学的な」という冠詞がメディア的にはついてきたように思う。ライヴでは全くもってずっと身体の奥底に響く音を鳴らしていたのだが、ボーカル、ギターの田中和将の読書家振りは所謂、当時から今でもかなりのもので、また言葉の言い回しとストーンズやアメリカン・ブルーズ、ソウル・ミュージックなどから影響を受けた粘り気のあるグルーヴははじまり的な「覚醒」のような曲での老成とニヒリスティックな振り子の中を揺れていたのをそう形容するのが容易で雑然と嚥下できる方向に強引にリードできたのかもしれない。(当時の)新世代の“ギターロック・バンド“の趨勢というのも語弊はありながらも、90年代後半の日本のガラパゴスの中でトライセラトップスや、スーパーカー、ザ・ピート・ベストなどとときにカテゴライズされながら、99年の「スロウ」、「光について」辺りでの巷間への明らかなブレイクスルーとアルバム『Lifetime』の評価の中での彼らはロック・バンドとしてのひとつの姿を体現していたのを想い返す。あくまでシンドロームのようなものなひとつとして。

               ***

 位相の深読みのできる詩、渋味を帯びたサウンド、また、J-POPなどで用いられる“J”がじわじわと退化、記号化し始める中でのあえてのドメスティックでオルタナティヴな尖り方と滋味。その後はバンド・メンバーの変遷や軌跡のうねりがありながらも、また、フェスやイベントで観るたびにサイケなセッションで観客を持っていったり、独自の立ち移置を保ちながら、もはやGRAPEVINEとしか言いようのない境地で、深く潜りながら、自身の再定義も進めていった。そして、この「Arma」は思い入れどうこう抜きにここに来てしまった彼らについて、私的に深く胸を掻き毟られてしまった。MVでは髪をスタイリッシュに短くし、老いた、でも、いい毅然とした表情を持つようになった田中和将、長く傍らを支えるギターの西川弘剛、ドラムの亀井亨がフィーチャーされながら、曲そのものはもはやサポートとはいえないベースの金戸覚、キーボードの高野勲の鉄壁の布陣でいわゆる、勇壮なホーンの響きにのせてビッグネスなロックに向かっている。でも、彼は多様に繊細さとサイケデリックと叙情とブルーズ、イロニー、ルーツへの敬意を行き来していたので「Arma」が取りたてて短絡にアンセミックな“大きい曲”ではないとは思う。ストーンズの長年の転がり方も決して枯ればかりではなく時代の移ろいとともにあったように、彼らのバンド名の由来のになったマーヴィン・ゲイも多様な曲を出していた。ときにジョークと、真面目さ、ショービズなものと。

 ただ、今にこう歌われてしまうとどうにも切なくなる。

    例えばほら
    きみを夏に喩えた
    武器は要らない
    次の夏が来ればいい

 先ごろのマンチェスターのいたましい事件をうけての「Don’t Look Back In Anger」という曲が話題になったが、“こう”としか取れない表現に今は誰もが想像を付託できないように思えてくる一例だった。”Arma”の意味もサーチしてくれれば分かるが、この曲をおさめた新しいアルバムが『ROADSIDE PROPHET』なように、明らかに含みより先に届けようしている何かがある。でも、彼らは漂然とそこは周到に受け止め、かわしてゆくのだとも思う、きっと地に足に着いた音風景とキャリアを経ての牙を隠しながら20周年を迎えるという足跡にはせめてものこれまでとこれからを慮る賛辞を。

    物語は終わりじゃないさ
    全てを抱えて行く

 全てを抱える、と表象するくらい物悲しいことはなく凛然たる決意のきざはしはない。そういうバンドが生き残って荒涼たる場の中でそれでも、歌うのは、悲しいことではないと思う。多少はくたびれながらも艶美な「声が届く」肌理細やかな様相は変わらずに。

(※2019.1.11時点でYouTubeの動画が削除されていることを確認しています。レビュー文章だけ残しております)
(2017.7.22) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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