butterfly inthe stomach『やっちまいなローリングサンダー』
ピロカルピン『ピノキオ』
Radiohead
『Man Of War』
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どんな生物にも、“生老病死”という楼門のどこにも実のところ出られはしないのだと思う。脳だけを保存、フリーズして電子化してもその未来の先で、誰が俟っているのだろう。生きたら老い重ねる。そして、ときに病気を患い、“こと切れる”こともある。居丈高な面からじゃなく、きっとすべてはいずれ粉塵に帰すから、生老病死も心配することなく、今生きているとするならば、その明るいか暗いか分からないあなたの非分別な視界を切り拓いていけばいいのだと今は時おり希っている。それしかできないのもあるのだが。思考でも、スポーツでも、文化、教養、ときに無為でもいい。ただ、武器じゃなく、生きるための試行はいつだって見えない、知らない第三者から追いかけられる脱走のようで、脱走している場所はそれまではフラワーズ・ガーデンだったり、何気ない日常的な公園のベンチであったり。
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レディオヘッドの世界中での“不失者”の行方を描く筆致はMVのなかで特に発揮されるが、この1997年から20年を迎えての彼らにとって、ファンにとって貴重な曲もおさめられた『OK COMPUTER OKNOTOK 1997 2017』からカットされる曲のひとつ「Man Of War」は90年代後半のどこか享楽性と反比例してのダウナーな懐かしい香りと、彼らのあのときのギスギスさと神経症気味に自分たちを追い込んでいた空気感を継承させながら、「No Surprises」にある種、通じる奇妙な安堵感が若いトムの声、エレトクロニクス要素に埋もれる前夜の粗さも含めたバンド・アンサンブル、まさに90年代後半の湿度までを皮膚下に鋭利に思い起こさせる。隠滅として詩のなかで群がる当時の現象性も含めて。
当初から話題になっていたこの曲以外に「I Promise」、「Lift」、他のEPやシングルのB面曲群までをおさめてのリマスタリング、様ざまなパターンでのリリース、アニバーサリー盤としての意味合いもありながら、何かと自身たちの作品にはナイーヴまでの意地をはる彼らからしたら存外にスムースに届けられた感も強く、それだけ『OK COMPUTER』の世界的意義を踏まえながら余計な負荷をよりつけたくないような配慮もうかがえもする。ただ、「記念」というより、1997年の『OK COMPUTER』というアルバム自体はこの20年の波間で、レディオヘッドのバンド名を大きくしてゆくだけではなく、ずっと世界中で求め続けられて通奏底音にあったのを思いかえす。自動車社会でのエアバッグがあるという不安をプログレッシブに軋ませた佳曲「Airbag」から、多くの現代社会への警鐘を鳴らしてゆき、本編では最後の「The Tourist」までの誠実なカオスと“祈念”に近くも感じる。彼らも、その後も都度のライヴでそのアルバムからの曲を演奏していたし、色褪せた印象はなかった。
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彼らの感覚が“速すぎた”のか、作品が“模写”した世界がもう間に合わないのかは正直、わからない。でも、デッドエンドの彼方をコンセプト・アルバム的にクレイジーに描いたアルバムより、現代のリアリティはもっと冷酷になっているといえず、テクノロジーは発展しながら、民族紛争や人間の有様や、生活様式、接続される・接続のために断線され得るポスト・トゥルースやフェイク・ニュースはもうコンピューターのなかでYESもOKも言えないところがありすぎながら、でも、不意に知っている都市で陰惨な事件が起きたときにふと自身は顔を伏せてしまいながら、せめてもの光の向こうの、なにかを希う。しかなく。
「野暮」だと承知していても、もう少し緩やかな20年の歳月であったらよかった、とは言わないし、言えない。ただ、彼らのようにワイアードなバンドがすっと胸に届く曲をこうして公式に音源としてリリースする瀬とは、あまねく戦夜に遠くに翳ろう、もしも、誰かの葬送のための灯のようで切ない。ゆえに、呼吸だけは深く聴き手や生きる者たちの鉄の肺を鍛えるようにつんざく。何に追われているのかがわからなくても過呼吸になりすぎるまえに、静かに深呼吸を。ともに、漂流の向こうに何かしらの島があることを、と。
Drift all you like / from ocean to ocean
(『A Man Of War』)
(2017.7.14)
(レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
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