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宇多田ヒカル
『忘却 featuring KOHH』

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 3日前に公開されたMVが公開翌日には数万回の再生回数。このレビュー公開時にはどのくらいになっているんだろう。その冒頭、いきなり男性の声でラップが始まる。誰だこの兄ちゃん? Kohhというラッパーは実は有名な人なんだけれども、ほとんどの宇多田のファンにすれば「誰だそれ」だよねきっと。で、この人の言葉がけっこう刺さる。この人が歌うラップパートは宇多田ではなくKohhが書いているらしい。もちろん確認とか了承とかはあっただろうけれども。宇多田ヒカルとKohhが交互に並べていく言葉には厭世観がある。突き刺さる。その内容とか背景とかについてはもういろんな人がいろいろと語っているだろうからそっちに任せるとして。僕がこのMVを観た時に「いったいどのくらいの(宇多田ファンの)人が、Kohhの言葉を評価するのだろうか」ということを想った。いやもちろんこうやって宇多田ヒカルとフィーチャリングの形で共演しているから評価するだろうけれど、そうじゃなくて、Kohhが1人で歌ってて、いやもっと言えばKohhという知名度のあるラッパーでもなくて、まったく無名のラッパーとしてライブハウスでこの言葉とメロディを表現しているのに出くわしたら、どのくらいの宇多田ファンが評価するのだろうかと。
 もっと言えば、宇多田ヒカルがデビューの時にコレを作品として出していたら、あのファーストアルバム800万枚というような爆発的な売れ方をしたのだろうかと。やはりAutomaticというそこそこポップな曲だったからなのではと想ったりする。デビューからいきなりコレだったら、たとえヒットしたとしてもアングラの女王というポジションで割と地味な活動をしていたのではないかなあとか。
 じゃあ楽しくおかしく歌って踊ってというだけで良いのかというとそうではないし、誰かがこういう表現をしなければダメだし、大きな影響力でこういう表現を多くの人たちに届けるためには、いきなり最初からではなく立場を築いてからでなければなかなか難しいというのは、やっぱり難儀なことだなあという気がしてならない。

 この曲の中で「カバンは嫌い、邪魔なだけ/いつか死ぬ時手ぶらがベスト」と歌われていて、それは別に死ぬ時だけじゃなくて、生きている間だって、手ぶらでいければどれだけ楽なのかということが歌われているのではないかなあと。そしてその手ぶらを邪魔するカバンってなんなのか。それは僕の勝手な解釈によれば、宇多田だから聴いてるという、その入口を選ぶ僕ら自身の不自由な心なのかもしれないと想うのです。

(※動画が削除されていることを2018.4.24時点で確認しています。レビュー文面はこのまま残しておきます)
(2017.1.21) (レビュアー:大島栄二)
 


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