鬼束ちひろ『夏の罪』
LILI LIMIT『A Short Film』
The Birthday
『夢とバッハとカフェインと』
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荒んだ大気の秋空鑑賞がてら、そのなかにトンボを追いかける色んな国籍の子たちが小さな公園に居て、時代などなにも変わっていない。スーパーマーケットのカナダ産の松茸を一瞥もせずにしめじ、えのき、もやしなどに目を配す生活戦士たちの隣席には高いコンドミニアムが建っている。日常が手一杯で、アメリカの大統領選の結果でどうなるのか、みたいなことを喫茶店で交わしながら、すぐ隣では饒舌に勧誘をしている。何への勧誘かは知らない。なにも変わっていない。少し目が疲れることが増えたのか、黒いサングラスで世の中を見ているような気分になることが増えた。今がどうなるか、今瞬間、何が起きるか分からない。だから、浮かれよう。憂かれて終えよう、ではなく、グッと腰に来るリズム、この重厚で硬質なリフと、うわべの速度と熱狂は無縁とはばかりに、チバユウスケという稀代のロックンローラーがこれまで寸断なく続けてきたロックとブルーズを凝縮させたこの曲の何気ない物悲しさにしても、愈よマッドな時代に反射光のように映える。サングラスの鏡面に映った現実を反転させるような場へナビゲートして、でも、夢やバッハやカフェインが同列に並ぶ訳じゃないこと。それが大事で、そこからカフェインがバッハの譜面を染めて、誰かの悪夢を醒めさせるためにあるのならば、足早に死刑台のエレベーターに足を乗せない方が良いのかもしれない。まだ、その時期じゃないなら、ちょっと前のバンドの音楽を聴いてみるのもいい気がする。
雨が降ったら 濡れていこうぜ
風が吹いたら はしゃいじゃいまえよ
なるようになるって ザ・ビートルズも
言ってたらしいぜ ちょっと前に
(『夢とバッハとカフェインと』)
ここがどんなにありふれた荒野でも、ひたすら歩き、ときに休み、それでも、「続けていく」のが先決なのだと思う。サングラス越しに見ないでもいい、素面の知性と空まで。
(2016.11.21)
(レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
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