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『KICK IT OUT』

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 今、彼らのことについて記すこと自体、弔鐘を鳴らしてしまうには早すぎるような気がしてならず、また最新の音源がこれまでのキャリアを更新してゆくバイタルな眩さに溢れている内容だっただけに戸惑うが、やはりこれを機に彼らのことを知る人も居るだろうことを希って筆を執りたい。

 1998年のデビューアルバム『Out Loud』を聴いたときの感覚は今でも鮮明に想い出せる。当時、ロック・シーンはレディオヘッド『Ok Computer』以降の流れのダウナーながら、優美なエレクトロニクスとロックの折衷という潮流とともに、ケミカル・ブラザーズ、ザ・プロディジー、ファットボーイ・スリム、プロペラヘッズなどのいわゆる、ビッグビートという高揚感溢れるダンス・ミュージックが席巻していた。日本は「失われた10年」の間にあり、ガラパゴス的にじわじわとJ-POPの次のフェイズに行こうとしていた頃と纏める、とかなり乱暴かもしれないが、ブンブンサテライツは日本人のユニットながら、洋楽の枠にあり、また、シーンの中でも独自なポジションに居たといえる。『Out Loud』も当時はビッグビートのカテゴリーの中におさめられていたが、ホーンの調べやジャジーな要素の強さ、硬質で繊細なビート、特に「Push Eject」などのプリミティヴな尖り方と残響は今聴いても、ロックンロールの意味を再確認させてくれる。

 そして、なにより、格好良かった。

 表層的なスタイリッシュさではなく、まさに心身を削り、音楽を作っているのが伝わってくるように。ゆえに、その思索の過程がアルバムや音源の内側でのいささかの内省性に刻まれ、時に過剰なほどの重さを感じさせることがあった気もする。メンバーのインタビューを読んでも生真面目すぎるほどに言葉を選び、シリアスに音楽に埋没していく様はときに痛切で、ライヴでもその片鱗が伺えた。ただ、06年の『On』でいわゆる、パンク・ロックへの急接近、これまでと違う開放感があり、特に今でも多くの人に愛され続ける「Kick It Out」はどんな場、フェスやライヴで聴いても、一気に視界が拓ける鮮やかな突き抜け方があった。最初のイントロと川島氏の咆哮で掴まれる感覚。ブンブンサテライツとはやはりロックンロールへの殉教者だったのかもしれない。今年に彼らは活動を終え、川島氏はもうこの世には居ない。

 あまり野暮なことは書きたくないが、遺された何かはずっと消えずにあると願う。生き延びる難しさ、生きたくても生きられない事情もあちらこちらに溢れていて、ふと事切れることもあれば、淵で立ち止まることもある。また、去りて、そのさまが風塵の虚空に舞うばかりでもない。日常や生たる何かは在りきたりな反復や繰り返しではなく、また、劇的だったり、悲愴だったりな瞬間ばかりでもなく、さざなみのような変遷がエコーのように内なる想いの叫び声のように続いてゆくようなもので、誰かにとっての艱難な急な坂道も誰かにとっての救いの下り坂なのかもしれない。

 無論、どちらにとっても坂道だといって、途中に休憩所や休息の時間は必ずある。その時に振り返ってみたときの径が繰り返しじゃない、過程や轍なのに気付き直したら、途中のただの石ころに見えた”それ”も少し耀いてみえる気がする。そう信じながら、この瞬間、一秒前の過去が現在の手前の永遠と止揚されるあいだに、彼らの音楽に触れ直してみるのもいいとも想う。
(2016.11.1) (レビュアー:松浦 達(まつうら さとる))
 


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