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ENTHRALLS
『きょうはうまく眠れない』

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 ENTHRALLSは気になるバンドだ。ボーカルの井上佳子は髪の毛が金髪の時もあれば黒い時もあり、長い時も短い時もある。女性ボーカルにとって髪型はイメージを司る重要な要素で、これを変え過ぎることはイメージが定着しないというマイナスに容易につながる。たかが髪型、されど髪型。一度どこかで見た時の印象が、次に見た時にまったく活かされないというのは一種致命的な損失につながる可能性が否定できない。だが、この井上佳子の目つきがあるから、髪型がちょっとやそっと、大幅に変わっていても、再び見た時に「あ、あの人だ」とすぐに思い出す。一度見たら忘れられないというのがこの場合良いことなのかそうではないのかよくわからないのだが、バンドという意味でいえば確実に良いことに違いない。その忘れられない人が発する声。これまた独特でインパクトがある。とても高音域に特化した声だが、単なる高い声とはやはり違う。HPのバンド紹介欄に「古傷をやさしくえぐるファルセット」とあるが、確かにただのファルセットではなくて、古傷をえぐるような意地の悪さと伴った高音だ。だがその古傷のえぐり方は、悪意を持った底意地の悪さではなくて、「忘れるなよ、自分の過去を忘れるなよ」とでもいうような、「もうそこはそっとしておいてくれないか、このままダメな人間になっていきたいのだから」という人の方をぐいとつかんで引き戻すような、善意からくるおせっかいのような、そんな感じがする。その時に彼女の眼でじっとリスナーを見るのだから、やはり意地悪だなあという想いが広がっていく。この歌の冒頭で、「きみの代わりはどこにもいない」と歌う。これは恋愛の相手についての言葉なのだが、この冒頭の歌詞を耳にして僕は、ああ、この声に代わるボーカリストもいないよなあと考えたりする。女性ボーカルというと癒しを求めたりすることがほとんどだが、こんな古傷をえぐるような女性ボーカルバンドのCDが1枚くらい、自分の棚にそっと並んでいても悪くない。
(2016.10.15) (レビュアー:大島栄二)
 


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