前田和亮『僕は君に恋をする』
デラ☆センチメンタル『純情☆乙女ゴールド』
川本真琴 and 幽霊
『first flight night』
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川本真琴という人の1996年の衝撃は今の若い人たちにいくら説明してもきっと判らないだろう。いやまあそれは個人的な感想に過ぎず、世の中のどんなアーチストやバンドに対してもファンは大きな衝撃を受けるものだが、そのことを理解した上で敢えていうなら、1989年のドリカム、1998年の椎名林檎の衝撃に匹敵、いや、場合によってはそれ以上だったのではないかと思っている。1stアルバムがミリオンを記録し、金になると踏んだ大人たちが大仕掛けで展開する音楽活動は、彼女の考える音楽とはサイズや温度が違っていたのかもしれない。音楽業界の第一線から遠ざかり、不思議な名前のユニットで細々と活動し、ソニーでの2ndアルバムから実に9年ぶりに発売された3rdアルバム『音楽の世界へようこそ』はインディーズからリリース。それはどのくらい売れたのだろうか。そんな数字の話とは関係なく、そこには等身大でありながらも伸びやかな川本真琴の声が詰まっていた。音楽活動というのは不思議なもので、多くの人は大きなステージに立つ華やかなものしか見る機会がないけれど、そういう音楽活動はすでに大きなビジネスの歯車に過ぎず、アーチストは看板としてそこに立たされているだけということも少なくない。そういう活動だけに価値があるのではなく、小さなホールやライブハウスで等身大の声を発することにも意味はあるのだが、大きなステージを体験した人はそこから去った時に小さな活動を潔しとせずに辞めていく。そして、小さな活動に勤しんでいる人のほとんどは、大きなステージに一生到達することが無い。川本真琴という人はそういう大きさや華やかさに囚われることなく、その時その時の状況に応じた活動をすることを許され、そしてその活動の中で気負うことなく表現している人だと思う。この川本真琴and幽霊というユニットもおそらくこの企画限りのものだろうと思われるのだが、形なんて看板なんてどうでもいいじゃんという彼女の軽やかな笑みが歌の向こうに見えてくるようだ。それは大成功を収めて故郷に錦を飾る必要なんて無く、ある日ふらりと「ただいま」と顔を見せれば十分な帰省なんだよというような、誰しもに可能な音楽がそこに在るのだよという表現のようで清々しい。
(2015.8.15)
(レビュアー:大島栄二)
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