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『東京タワー』
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　以前暮らしていた東京のマンションからはスカイツリーが日々建設される姿がハッキリと見えていた。それは僕のレーベル20周年メッセージビデオにも残っていて、伸びゆく姿にはどことなく可愛らしい印象もあった。頑張って育てよと。しかし浅草辺りまでいって見上げるそれはかなり大きく、異形の神殿という想いを脳内に閃かせる。すこしばかり、怖いのだ。一方の東京タワーにはそういう圧力のようなものはほとんど無く、周囲の土地より少しばかり小高い丘に立っているので実際の高さよりも高く見えているはずなのに、見上げても、この塔が倒れてきて押しつぶされそうというような想いを抱くことはほとんど無い。海外旅行などして成田から高速道路を運転して都心に来ると、遠くから東京タワーが見え、ああ、ここに帰ってきたのだなと安堵を感じさせてくれる。このビデオは2010年の暮れに公開されていて、だから2012年開業のスカイツリーはまだ当然建設途中で、最終の高さまであと150m近く残っているという状態。だから東京タワーの存在感は今とはまた違っているのかもしれないが、夜に首都高を走りながら近づいたり遠のいたり、大きくなったり小さくなったりしつつも見え隠れするその姿は、きっと今も街の人との関係性を変えてはいないのではないかと想像する。そのひっそりと、でもしっかりと存在する姿というのは、母性ともいえる柔らかさを持った、そういう何かではないかという気がする。新宿副都心が開発されて、お台場が開発されて、いろいろなところに高い建物がにょきにょきと伸び、それでもずっと変わらない東京のヘソのような存在の何か。東京タワーというテーマの曲には、やわらかなメロディと声がよく似合うなと思う。スクラップ＆ビルドが進む大都会も、これだけはスクラップしてほしくないなと、遠くの街に暮らすようになってより強く思うような気がする。
(2015.8.11) (レビュアー：大島栄二)
 

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