ケリーマフ、絶叫するしか方法を持たぬ潔さ

〜2014年レビューアクセスランキング第1位、ケリーマフのツアーに寄せて〜 文=大島栄二

 先日発表された2015年3月アクセスランキングでは4位にランキングされているケリーマフ。これで2014年7月に初めてレビューが掲載されて以来、9ヶ月連続でアクセスランク上位に入り続けている。2014年の年間アクセスランキングレビュー部門では堂々の第1位に輝いた。昨年10月にはファーストアルバムもリリースした彼ら、この4月にはツアーを敢行する。全国的にも注目度の高い彼らの魅力をここであらためて確認してみたい。


『イカサマ』のレビュー以降

 

ケリーマフ『イカサマ』

 

 ケリーマフの『イカサマ』をmusipl.comでレビューしたのが2014年7月16日のこと。その月のアクセスランキングで1位。その後も1位(8月)、4位(9月)、5位(10月)、8位(11月)、6位(12月)、7位(1月)、5位(2月)、4位(3月)と連続してランクイン。2014年のレビューアクセスも1位。レビュー開始以来のアクセス数でも1位。まだ小さなサイトでのランキングではあるものの、条件的にはすべてのアーチストが同じであり、そこでの注目度がトップになるというのはやはり彼らに注目に値する何かがあるということなのだろう。

 世界規模で音楽を紹介するサイト“beehype”では、彼らのCD『The Band Name is』が日本の2014年ベスト50アルバムに選ばれた。これをきっかけに海外からの問い合わせも増えたという。

 musipl.comでのレビューからCDリリースが決まり、大きな反響を集めている彼ら。その音楽性やバンドの個性とはどのようなものなのだろうか。



絶叫することしかできない、不器用な彼ら

 昨年CDをリリースしたタイミングで、musiplでは彼らにインタビューを行っていた。だが、インタビュー記事としての掲載には至っていない。それは、彼らとの会話があまり膨らまず、読み物としては成立しない内容になってしまったからだ(もちろんこちら側のインタビュー能力が最大の原因なのだが)。


m:ケリーマフというバンドのことをまだ知らない人に、どんな音楽だ、どんなバンドだって伝えればいいのでしょうか。

ケリーマフ・クボ:60年のイギリスやアメリカのルーツを感じさせてるけど、現代の日本で生きてるバンドみたいな。

ケリーマフ・瑞樹:古いロックンロールを好きな人が聴いたらピーンとくるかなって、思います。

ケリーマフ・kajiwara:古臭い感じが一番の売りで、古臭い音楽を聴いてこなかった人にも入り口として

m:アルバムを聴いて、瑞樹さんの歌い方が他のバンドと較べて圧倒的に個性的だと感じたのですが。

kajiwara:個人的にはそれをバンドとして打ち出そうとはそんなに意識していないです。

クボ:まあ、ボーカルは一番聴いて欲しいですね。今のままでも良いんですけど、歌にもうちょっとリズムがあってもイイのかなって思います。頑張って欲しいと思いますw。

瑞樹:こういう歌い方をしようと意識はしていないんです。本当は自分でわざわざバンドを立ち上げるより、どこかに加入した方が楽だなとは思ってて、やかましい音のバンドを検索して探すとメタルとかになっちゃう。日本のガールズガレージなどを探しているうちに、女の子が絶叫して歌うようなのが本当にカッコいいなと思ったことがありますね。結局そういうバンドは探しきれなくて、自分で作ることになったんですけれど。


 彼らは、自分たちの特徴をテクニカルにアピールしようとは思っていないようだった。古いタイプの音楽を愛する彼らは、その姿勢や考え方もオールドスタイルなロッカーのようだった。自分たちのやりたい音楽をやりたいようにやる。結果として売れるなら良いのだが、売れるための音楽の作り方などは微塵も考えていない。

 今の時代、バンドに求められているのは単に音楽の才能だけではない。無数のバンドが自分たちのステージに注目して欲しい場合、音楽性が高いことはもちろんの前提で、その先にアピール力が必要になってくる。音楽力が同じバンドがどこで差がつくのかというと、結局は音楽以外の部分の差ということになる。だから多くのミュージシャンはステージでおもしろいMCをするし、インタビューやラジオ出演の機会を得たら本当に饒舌に喋ってくる。そういう非ミュージシャン的な活動が得意なバンドマンは伸びていく。

 しかしそういうのが苦手なミュージシャンも少なくない。ケリーマフもそう。優れた創作をしてパフォーマンスをするだけで、人間の能力としては十分に尊い。他の部分が不器用だとしても誰が責めることが出来ようか。だが現実には音楽以外の部分でも頑張っているアーチストの方が認知され、結果として売れていく。音楽の点で同じ価値のバンドであれば広報力が優れたバンドが売れるのは当然だ。だが、音楽で優れ広報に劣る者と、音楽で劣り広報に優れる者とではどちらが売れるのかといえば、残念なことに後者である。それは本当に不幸なことで、存在を知らせられないことでいい音楽を認めてもらえないバンドも不幸なら、いい音楽に到達出来ないリスナーも不幸だろう。



ケリーマフに寄せて 〜松浦達〜

 だが、聴く人が聴けば彼らの表層的なインパクトの部分だけじゃない魅力は、きちんと沁み出すように伝わっていく。musipl.comレビュアーでもある松浦達氏は、ケリーマフについて次のような文章を寄せている。

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 近年、レコード・ストア・デイなどの動き含め、再びアナログ・レコードの隆盛もあるが、自身としても彼らのこの音こそ、レコードで聴きたいと思った。昔、レコード蒐集家の知己の部屋にお邪魔すると、壁一面に鮮やかなレコードが並べられていて、また、同じ曲でも「これがオーストラリア盤ので、曲尺が違うんだよ。」とか教えてくれたり、知己が渋々、「溝が擦り減るけど。」と、時おり貴重な音を聴かせてもらったことがあった。2分半ほどのロックンロールからソウル・ミュージック、ジャズまで、そこで彼と話しているあいだは、何だか時間が無限に終わらない気もした。

 ケリーマフのサウンドはまさしく、何度もA面、B面を返してゆっくり針を落として、聴きたくなる躍動に満ちている。ギターウルフのようなバンドの在り方とは別に、また、HPに“TRASH BEAT BAND”と記されているが、想えば、thee michelle gun elephantは“ultra feedback groove”との名称が記載されてもいた。彼らと比較対象にするのは時代性から何から違うが、近似点も多く感じる。

 ギターの鳴り、ベースのうねり、ドラミングからは第一次ブリティッシュ・インヴェイジョンの頃のバンドからのインスパイアは十二分に見える。ローリング・ストーンズ、ザ・フー、アニマルズ。更には、パブロックから、ドクター・フィールグッド。最近のブログでベースのクボ タカフミはThe Shadows of Knight、The Kingsmenへの言及もしているように、サウンドのエッセンスとして溶け込んでいるのはそういったバンドの音なのだと察する。

 

The Kingsmen「Louie Louie」

 


 

The Shadows of Knight「Gloria」

 

 ギター・ボーカルの瑞樹の鬼気迫る歌唱、叫びにもつい意識が向くだろうが、このファースト・アルバム『My Band Name is ケリーマフ』の6曲から聴こえてくるのは衒いのないロックンロールで、一気に魅了されるドライヴ感がある。1分50秒弱の冒頭曲「スピリッツ」はシャウトとシンプルなフレーズ、3ピースの骨組みだけのサウンドが軋む。そこから先行でMVが公開された「蜘蛛がペット」は、独自のグルーヴと、センスが浮かぶ。

 

ケリーマフ『蜘蛛がペット』MV

 

 また、過去に、ライヴで何度も演奏されていた曲もアルバムに入ることで、また表情を変えている。個人的に好きな「東京湾」がラストにあり、この曲での「何もねえよ」と吐き捨てるとき、ロック・バンドとは元来、こういう凛然としたものであるかもしれないと思った。

 端整に高度商業化されたサウンドと、ベースメント・ミュージックが乖離しているのは、例えば、暗喩的に、フラットにニュースを見ても、明らかに「報道されなくなっている、報道頻度が減っている」ものと、急に獲物を見つけたように同じ報を横並びに流すような瀬を考えれば、早い。もはや、「本当」は誰も「本当」とは思っていないだろう。それでも、「嘘の、本当」を生きていかないとしたら、大きな事件や事故が起こるたびに胸を痛めていられるのか、人間はそんなに強くはない。だからといって、極端に弱いわけでもない。「諦めてしまうときがある。」、そんな言はこの数年で色んな場所で聞いた。間に合わない何かも多いとは思うし、進んでいる真実と現実はどこまでインバランスなのか、わからないとも思う。でも、膨大な情報ばかりを摂取しても、溺れるだけで最後は知識と自己判断で掻き分けて進むしかない。

 ケリーマフはこんな不穏な状況に、中指を立てる。自分たちが馬鹿にされていようが構わず、じわじわと崩れていっている「世の中(というもはや、あってない概念)」に憤っているのは決して、自分たちだけじゃないという気概があるからかもしれない。だからこそかもしれない、こんなフレーズが胸にくる。

      山奥で 君のこと 考えた 沈む夕陽を 君に見せたいと思った (「フール」)

 “何もない”ことは分かりながら、“君を思い、伝えること”を弁えた次の時代へ向けたバンドの始まりの狼煙となる作品だと思う。

 (文章:松浦達)

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東名阪ツアー『Trash Beat Tour』

 普段は東京で活動をしているケリーマフが、このたび東名阪ツアー『Trash Beat Tour』を決行することになった。東京以外のファンにとっては彼らを生で観るチャンスだといえよう。初めてライブを観るという人に、ケリーマフのベーシスト、クボはこんな風に語っている。

クボ:自分たちのライブの時に、ビール片手に踊ったり、身体を揺すったりしながら、30分の間だけ楽しい時間を過ごしていただければと思います。それだけです。

 やっぱり不器用だ。自分たちの特徴を伝えようとする言葉は結局彼らからは出てこない。しかし、そんなクボはベースを弾きながらクルクルと動き、踊る。それは無意識のうちに楽しいから動いてしまうのだという。言葉が溢れなくとも、身体から音楽の楽しさが溢れてくるのだ。そんな彼らの生を見てもらいたい。 musipl.comでも今回のツアーのライブレポートを予定している。どうしても会場に行くことが出来ないという方はそちらをお楽しみに。でも行くことが出来る人にはぜひ会場で彼らの熱を、叫びを、体感してもらいたいのだ。



ケリーマフ 『Trash Beat Tour』tour

2015年4月17日(金)名古屋 HUCKFINN 18:30open/19:00start
2015年4月18日(土)大阪 梅田 HARD RAIN 17:30open/18:00start
2015年4月19日(日)京都 夜想 18:30open/19:00start
2015年5月16日(土)東京 東高円寺 U.F.O.Club
            『Trash Beat Party』 18:30open/19:00start


   
         
 

2015.4.9.寄稿