では、本格的に、という訳でもないですが、あくまで、じわじわと紀行を始めたいと思います。これからはしばらく近接の東南アジアを練り歩いてみるのもいいのではないか、ということで、軽やかに“VIP”の三か国に致しました。
“VIP”とは、「ベトナム」、「インドネシア」、「フィリピン」の頭文字を取り、そのまま“要人”という意味も含みます。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)というのが01年から世界中に出始めましたが、次の商圏域、経済市場を担ってゆくべき三ヶ国と言えます。それでも、ニュースで見受けられますように、デモ、ストライキ、政情不安、インフラの不整備など問題は数多くあります。
しかし、それを上回ってきます人口動態の健全性はやはり注視に値するでしょう。例えば、合計特殊出生率に関して(※2012年)、フィリピンは3.19、インドネシアは2.25、ベトナムは1.91。動ける労働人口とニューノーマル層と、そうではない層の乖離も厳しくなっていきますが、市場原理、経済の合理性が組み込まれることで、この三ヶ国がもたらす熱量は高いものがあります。そんな熱量が高い中で、生まれてきている音楽を今回は少しばかり。更に、今回は段階的にインドネシアに特に、フォーカスを当ててみたいと思います。多様にして、奥深い音楽が明瞭にわかるからでもあります。
ベトナムは少し触りだけにしまして、フィリピンも深いので、次回に、と。こういう焦らない紀行もいいのではないか、と思います。行ったり来たり、新しく知ったら、古くを巡ったり―
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ベトナム ―V-POPの貪欲さ
成田からホーチミンであれば、5時間ほどのフライトで到着し、ベトナム料理も日本では馴染みのものも多く、昨今ではアパレル以外の生産元のタブでもメイド・イン・ヴェトナムも増えてきたを感じる方も居るでしょうか。
ただし、ベトナムは複雑な地域にあるといえ、南北に長く、商業都市たるホーチミンと別途の首都のハノイでも、雰囲気は違い、実距離もあります。そんなベトナムでは、雅楽としての“ニャ・ニャック”辺りはそれこそ動画サイトや編集版などで聴いたことがあるかもしれません。国との政情、混沌を抱えた場所として、面白いものが、というには安直なコンテキストも含め、中国の大陸的なメロディーにやや粗雑なビート、J-POP、もしくはK-POPへ目配せしました“V-POP”という潮流も強いです。前回の台湾でもそうですが、日本の有名曲のカバーも非常に多く、そんな中で最初に紹介を、と迷ったものの、Mỹ Tâm(ミー・タム)をといいますと有名すぎるかもしれません。
全米も注目する世界各国のベトナムの中のポップ・スターの一人で、個人的には、少し掠れ気味の歌声にウェルメイドなアレンジメントはいかにも“V-POP”の象徴としないでもないのですが、響く抒情的な何かはあります。歌っているラブソングの内容と比して、MVの牧歌性の妙も興味深さのひとつです。
Mỹ Tâm『 Gởi Tình Yêu Của Em (LETTER TO MY LOVE)』
さて、ホーチミンにも初のハード・ロック・カフェが出来まして、行ったこともありますが、ロックやパンクの趨勢も確実に生まれています。経済格差のみならず、いつの時代でも現状にREBELを唱える人たちは消えません。ストリートからの大音量で、ホテルで眠れなかった、みたいな駐在員の方の話を聞いた人もいるでしょうか、そういう磁場が在前します。
インドネシア ―ネット、情報収集力の強さと、裏付けの確実な経済成長
インドネシアは、以前にここでMOCCAというポップ・バンドを紹介させて戴きましたが、昨年、ジャカルタにブラーが来たのを観に行きましたが、翌日の新聞では彼らは“BRIT POP”の冠詞の中で語られていました。ブラーを呼べる国、場所になったこと。それは皮肉でもなく、ステータスです。20曲ほどのオールタイム・ヒッツで最高に盛り上がっていたのはやはり、あの世界的にバズを起こすパンキッシュな”WOO-HOO ソング”たる「Song2」でした。
BLUR『Song2』
インドネシア、島が多く分かれていますが、主にジャカルタでは、ニートで偏差値の高いサウンドと、スマートなテクノ、ダンス・ミュージック、ポップス、パンク、あらゆる音楽がカオティックに渦巻いています。
彼らは以前に日本流通盤も出ましたし、クールなポップにオリエンタルな要素を組み込んだギター・ロック、ポップ・バンドとして知っている方もいるでしょうか、ジャカルタのトラディショナル・ソングへの敬虔も示しながら、同時代性を持った越境的な佇まいと、男女混合ボーカル、癖になるリズムはデモーニッシュなものも包含します。
White Shoes And The Couples Company『Roman Ketiga』
【White Shoes And The Couples Company HP】
また、多種多様に良質なSSWが芽吹いているのですが、彼女もその一人でしょう。モノクローム、短編映画のような作り、不思議な鳥、東欧の諸国のような影響をトレースしたかのようなイメージを個人的に彷彿させつつ、いつかの〈クレプスキュール〉レーベルに所属していてもおかしくない、そんな夢想を強めます。ちなみに、タイトルになっており、繰り返される“Buaian”とは、“ブランコ”や“ゆりかご”のことです。USのベックの始まりではないですが、日々、動画配信サイトでは多くの名もなきSSWのか細くも凛とした声がアップロードされています。他愛ない日常のこと、ラブソング、プロテスト、性別は関係なくも内容は千差万別に。
DANILLA『Buaian』
【ORION RECORDS】
続いても、SSWを。ジャカルタといえば、ナイトライフも活況ですが、各国のDJが訪れては色んなクラブでパーティーが行われています。アシッド・ハウスからハウス、ミニマルまで。そういった情報群は溢れていると思いますので、ここでは、そこを外れまして、緻密に堅実に、音響工作を編んでいるクリエーターを。彼は、フォーキーに、チルできる穏やかなサウンドを紡いでいます。朴訥な声もいいです。
ADHITIA SOFIAN『Adelaide Sky』
【ADHITIA SOFIAN HP】
最後はスムースかつグルーヴを持った彼らを。あまり奇妙なものをということで、ここまでは、日本でも比較的、知名度の高い方を敢えて、あげてみました。コアなものはまた別途に。
TOKYOLITE『Never Want』
【TOKYOLITE FACEBOOK】
こうして、緩やかに航行は続いていきます。 じっくり急がず。