その『29』の中でも、印象深かったのが、「これは歌だ」という身も蓋もないタイトルにして、彼らしいセンスが活かされている曲だった。桑田佳祐は自らの深読みされてしまいがちな歌詩への風潮へのイロニーとして、『たかが歌詩じゃねぇか、こんなもん』というタイトルの詩集を出している。また、ローリング・ストーンズも1974年には多くの実験を経ている過程の真っ最中に、『It’s Only Rock’n Roll』とさり気なく巷間のイメージをかわしてみせた。たかが、と、されど。しかし、その距離を見誤ると、「歌」は届かない。